1.打楽器奏者のタイプを知る
世間には、様々な種類の打楽器奏者がいます。音楽のジャンル、シーン(場面)、楽器所有の有無、経験等を加味して適切な人に仕事を頼むのが大切です。 まず音楽のジャンルについて、クラシック、ロック・ポップ、ジャズ、ラテン、それぞれ別の能力が要求されるのは他の楽器と同様です。もちろん複数のジャンルができる人もいます。ただし打楽器奏者について特に留意して頂きたいのは、ジャンルによって必要となる楽器が大きく異なるということです。例えばドラムセットを使う仕事でも、ロックとジャズではほとんど別物のドラム、シンバルが好まれます。したがって依頼する奏者の所有する楽器が非常に重要になってきます。楽器の種類がわかるという方は、多くの(まともな)奏者がGear List(使用機材リスト)という形で自分の所有する楽器を提示する手段を持っていますので、ウェブサイトや問い合わせで調べましょう。(宣伝:僕のGear Listはこちら。)楽器の種類が特にわからない方は、経歴を見るか、直接相談しましょう。駆け出しの奏者は機材が揃っていない場合もありますが、複数の打楽器奏者がいる場合にはある程度機材力のある奏者が楽器のレンタルを行うという場合もあります。 次にシーン(場面)についてです。これは依頼のタイプとも言い換えられます。例えば小編成を組んで狭い会場でBGM的に演奏するのと、広い会場、厚い編成で音楽がメインの演奏をするのとでは、必要とされる能力も楽器も異なります。これに関しては経験値も大きく影響するので、依頼先の経歴やメディアを確認するとよいでしょう。 学歴、受賞歴で判断するのは例外が多いのであまり賢明とは言えません。クラシック畑の学校を出ているジャズマンもいますし、アンサンブルょゎょゎなソリストもいます。(ジャズのできないジャズ科も……) エンドースメント(楽器メーカーなどの公式認定)のあるアーティストは多少信頼度が高いかもしれません。ただしこれには注意が必要です。好きなメーカーのエンドースは受けますが、あまり好きではない会社からのお誘いはお断りしている場合もあります。そのため、エンドースがなくても素晴らしいアーティストもたくさんいます。 2.打楽器奏者の価格を知る 打楽器奏者の報酬相場に関しては、世に出回る情報が少ないからか不安の声をよく聞きます。これは経験値や応用力、集客力に依って変わります。 やはり集客力は大きいファクターで、今でいうとSNSのフォロワー数なんかで露骨にわかります。知名度がありファン層がお金を落としやすいような場合には主催者側に入ってくるお金も大きくなるので、報酬額も高まりやすいという仕組みです。ライブ、コンサート系の仕事でよくみられるチケットバックや歩合といったものと、REC系の仕事でよく見られる〇万円という固定額のものの大分して2つ、報酬の設定方法がありますので、打楽器奏者側との交渉が必要です。「先生」や「マエストロ」と呼ばれる”お高い”人でも集客力がなかったりするので、特に初めて依頼するときは少し注意が必要です。 経験値、応用力も報酬額に関与してきます。こちらは集客力ほど劇的な影響がないので、比較的お得な奏者を見つけることもできるともいえます。多くの場面、ジャンルを経験し楽器を所有しているような奏者はその場の状況を見て演奏以外の能力を提供してくれる可能性があります。複数ジャンルの音楽を一現場で演奏したり、大編成向けの楽譜しかないときに作編曲の能力を活かして小編成に書き換えたり、複数楽器の演奏ができることから小音量が要求される場面でドラムセット以外の楽器を提案したり、ミュージカルの経験と機材を活かして複数のパートを一人でカバーしたり、英語を生かして海外ミュージシャンとの通訳をしたり、人脈を活かして他のメンバーを調達したり、即興演奏の能力を活かして”引き伸ばし”を行ったり、そういった演奏の”一つ外側”の仕事を同時に行うことのできる人材が多くいますのでぜひ探してみましょう。(宣伝:上記は私のよく頂く依頼例です。) 報酬額の設定方法については人によって大きく異なるのでまずは問い合わせて相談することをお勧めします。(宣伝:僕の価格表はこちら。)ちなみに報酬額を考えるとき、打楽器奏者側はこんなことを考慮していますのでご参考になれば幸いです。(ヒント:会場に楽器があると経費が安くなるので報酬額も少なくて済む。次の仕事の確約があるとちょっと安くしやすくなる。)
3.仕事を依頼する時に送るべき、知らせるべきもの 仕事がどれほどスムーズに進行するかは最終的な演奏のクオリティや次の現場の報酬額に間接的に影響してくるので、前準備の段階が当日より大切かもしれません。依頼の決定次第送られてくると嬉しいものは以下の通りです。
4.リハ、本番日に打楽器奏者が気にすること リハや本番の日にも、仕事がスムーズにいくかどうかの鍵となる事項がいくつかあります。
5.最後に 今回このような文章を書いたのには、紹介や集客力、学歴のみが判断材料になり、明らかなミスマッチの仕事を頼んで/頼まれて失敗したという方が多い、前述の判断材料が重視された結果若手に回せる仕事が少なくなる現在の構造、(自他含め)打楽器奏者ならではの事情が多く依頼者と演奏者のミスコミュニケーションがしばしば発生している、という背景があります。これらの問題は金銭的なことを含むビジネス的トピックを軽視、and/or忌避する業界の傾向が一因になっているので、今回の記事がこの状況を改善させられれば幸いです。(宣伝:お仕事のご依頼待ってます。)
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オンラインレッスンの第1弾として、デジタルパーカッション入門編を配信開始しました。
打楽器の演奏者の皆様向けに作りましたのでぜひご覧ください。 主な内容 ・MIDIとは何か ・MIDIを使うとどのような音楽が作れるのか ・電子楽器などを購入する際のポイント ・音声処理、エフェクターとは何か ・マイクの選び方、設置の仕方 ・機器の接続方法 ・トラブルシューティング
コンガレッスンの生徒の皆さんにいつもご案内している練習セットを紹介します。
綺麗な音色を出すのがとても重要かつ技術的に難しい楽器なので、コンガに関しては実物を使った練習が必要不可欠です。スタジオでレンタルして練習するのもよいのですが、スタジオの楽器はチューニング等メンテナンスのされていないものも多く、スラップのしようがない場合さえありますのでご注意ください。 コンガ本体
スタンド
ドラムの練習に困っている生徒さんが多いので、こちらに投稿しておきます。ご参考になれば幸いです。
何が必要?
最初はパッド(とスタンド)があれば問題ないと思います。
慣れてきて、ダブルストロークや速い演奏をキックペダルで行う必要が出た場合はキックペダルとそのパッドを買う必要があります。キックはあまり普段から行う動作ではないので、脳と筋肉に慣れてもらう必要があります。 キックペダルを買う場合は防音マットもおすすめします。振動を防ぐという意味と、ペダルを固定するスタッドによって床が傷つくのを防ぐという意味があります。 シンバル類も僕は使っていますが、スタンド類を含めると結構金額が高くなってしまうので、本物のドラムを所有する場合以外は特に必要ないかと面ます。 練習パッドとスタンド
キックペダル
シンバル防音マット
帰国以降様々な場でこの曲を演奏してきました。楽譜が欲しいという声をよく聞きますので、ここに公開したいと思います。 電子楽器ならではの表現になっており、大人にも子供にもウケます。演奏時間が1分以下ですのでコンサートの導入やデモ演奏なんかにはもってこいです。 1打で生楽器4打分(元の音、1オクターヴ下、完全4度上、元の音)が出せるので練習量の割に上手く聴こえるようになっています。ご活用ください。
いつも聞かれる質問にお答えします。
僕の場合、よく聞く聴覚と視覚ではなく、聴覚と触覚の共感覚です。 この音ザラザラだなとかツルツルだなとか。 この音鋭いなとか柔らかいなとか。 この音熱いなとか液体だなとか。 そういう感じです。逆方向もあります。 このサラサラ感はこんな音だなとか。 このネッチョリ感はこんな音だなととか。 このずっしり感はこんな音だなとか。 割となんでもありです。材質・重量・硬度・粘度・温度などなど。 パーカッショニストとして生きてきたからか、音階は全然浮かびません。 音の高低は触覚と対応しているのですがドレミは全然なんのこっちゃです。 自分は日米ともにパーカッショニストに囲まれて生きてきたのでこれが普通だと思っていたのですが、一般には普通でないみたいです。音を形容するとき触覚関連のオノマトペを使う文化があるので、言葉経由で身についた共感覚なのだと思います。 待て宮﨑。触覚に時間経過の概念あんのか?と突っ込まれることもあります。まあ、あります。単純に触っているかいないかのデジタルな変化と、ザラザラがだんだん磨かれてツルツルになっていくといった変化とがあります。あるいはもっと短い時間の感覚、例えばネッチョリが手からこぼれ落ちる感覚などもあります。 近現代においては、共感覚を含めた色々なアプローチで音楽を”翻訳”する試みがなされています。色々な作品があって面白いです。音楽も視覚芸術も、音自体ではない”なにか”を伝達する行為です。ある音楽と同じく”なにか”を視覚芸術で表現できるアルゴリズムが開発したい。そういう気持ちでみんなやってるんだと思います。 僕個人今は、音楽も視覚芸術もそれぞれ得手不得手があるからまあどっちも効果的に使えれば良いなあくらいのスタンスです。お金持ちになったらそういう”翻訳”の研究もしたいです。
多くの友人から「なんだかよくわからん。みんなの聴きなれた曲でもっとわかりやすい解説をしなさい。」とご指摘を頂きました。今回易しめの記事を書いたつもりです。またご感想・ご意見よろしくお願いします。
まず最初はTubular Bellとホルンで幕を開けます。ここでのポイントは、それぞれのテンポが同期していないということです。日常生活で聞こえてくる大半の音は“設計されていな音”であり、結果としてそれぞれが同期されていません、このパートは、それを再現することで”予想していた音楽”とは違う異質なものとなり目立ちます。素晴らしい設計ですね。 この技法はどのジャンルでもよく見られますが、クラシックの世界では今回のようにTubular Bellを使うケースが鉄板です。教会の鐘々が街に響く様子が想像されますね。 ”音楽として聴くことに慣れた音”がここで意表を突いて入ってきます。ゆっくりのびのびと演奏されたホルン。この最後の部分が打ち切られるようなタイミングです。この“驚き”がAEDあるいは車のジャンプスタートのように働きます。元気の良い曲を急に始めるためのエネルギーを与えます。これがホルンの間をしっかり取ったタイミングで始まった場合を想像をすると、エネルギーの流れが不自然になりますね。 これが意外なタイミングとして演出されていることは、イントロのティンパニをよく聞くことでもわかります。このクレッシェンドが音量を上げきったならば、溜まったエネルギーを解放する音を次の一拍目に打ち鳴らすはずです。これがないということは、一拍目がクレッシェンドの途中で来てしまっているということです。 さて、いよいよメインとなる部分です。この曲で考察して欲しいのは、どのようにしてこの曲がハイエナジーな状態を保っているのかということです。 音はエネルギーに他なりませんから、音は音楽の燃料といえるでしょう。つまり”音の数”の多い曲では曲全体のエネルギーが多くなります。汽車に石炭を入れるイメージをしていただくとわかりやすいと思います。走り出すのは石炭を入れるから。力強く走るのは石炭をたくさん入れるから。徐々に止まるのは石炭が燃え尽きていくから。そういった具合です。 音の数を稼ぐ方法には大きく分けて以下の3つがあります。1、テンポを早くする。2、音を細かくする。3、層を厚くする。この曲ではそれら全ての手段を使って燃料を補給しています。 1、この曲のテンポはBPM170、結構速いです。速い曲の方が一般的にハイエナジーなのはこのためです。 2、この曲では、ボーカルが八分音符・四分音符ベースなのに対して他のパートが十六分音符になっています。 3、同時に多くの音を発するイメージです。この曲では、多くの声、ギターが役を買っています。多層構造にすることで音の数を稼いでいますね。テンポの遅い曲でも、音をいくつも重ねて厚みを出すことで力強さを出している場合がありますね。 燃料補給が”絶え間なく”行われているのも1つの特徴です。メロディが止む度、ドラムが大きく細かいフィルインを入れています。忙しい忙しい。ドラマーとしてはコスパ(報酬/打数)の悪い仕事ですね。 この曲ではエネルギーの上下ではなく”汽車の速度”で展開を作っていますね。例えば冒頭の「たからかに」の部分などは全体が音の数を急に減らすことでそれまでのエネルギーがぐっと抑えられます。急ブレーキをかけた時に前のめりになるイメージですね。 読者の皆様の中には、音の設計・音の数という2つの概念に馴染みのない方も多いと思います。今後音を聞かれる際それらの新しい視点を導入していただくと、新たな世界が見えると思います。 本当はTubular Bellの距離感、シンコペーションによる跳躍感など書きたいことがまだまだあるのですが、明らかに容量オーバーなのでここでやめておきます。ご意見・ご感想お待ちしております。
曲名にもあるようにこの曲はだいぶtrickyになっています。一曲通して変わらないパターンはあるのですが、Benny Grebがそれを様々な方法で捉えることで色々な味が出ています。
まずこの曲の1セクションは、以下の3フレーズ(小節)によって構成されています。 5+5+5+5+5+5+3+3 (=36) 5+5+5+5+5+5+2+3+3 (=38) 5+5+5+5+3+3+2+3+3+3+3+3+3 (=46) Benny Grebは左足HHで八分を刻み続けることの多いドラマーなので各フレーズが十六分偶数個なのは納得です。5と2または3の関係性を上手く利用した分割ですね。4を基調にすると丁度割り切れてしまい、2:1の関係が様々な時間単位でどこまでも繰り返されることになりある意味聴き飽きた感じになってしまいます。こういう非フラクタル構造の音楽は普段よく聞く音楽とは違うセンスを孕んでいて勉強になります。
以下は、それぞれのセクションで彼がどのような取り方をしたのかを分析したものです。
セクション1
フレーズの導入部です。分割を一切行わないことで、2分割3分割を予想しているオーディエンスを混乱させます。3拍子、4拍子とも取りにくいので、どのような解釈がこの後なされるのだろうという期待感が高まります。ジングルの乗ったシンバルのショートディケイな音が"間"を作っていて良いですね。
セクション2
メロディが始まります。メロディのモチーフは1つのみで、パンニングを利用してメロディが複層に"ちぎられて"います。
楽譜には書きませんが、Benny Grebはいつも通り左足で八分HHを刻んでいます。右手の小型HHはまさかの4分の長さのリズム。この時点で5:4の節奏的ポリフォニーが始まっています。右足・左手のキック・スネアはフレーズを追っています。メロディはそこまで追いません。ここでグレイスノートを分析してわかるのは5が並ぶときの分割が3+2, 2+(2+1)の繰り返し、非同一であるということです。これが単純に偶数回目の5が八分の裏スタートであるからなのか、メロディの起伏に対して沿うようにした配慮なのかはわかりません。 セクション3
ここでメロディは終わり、元のフレーズのみになります。
右手は重ねシンバルでの四分に変わります。ジャリジャリ感がたまりません。ここでわかりやすいのは彼が四分を3フレーズ目で"リセット"していることです。そのまま打ち続けると八分の裏になってしまいますが、それを阻止しています。これはセクション1でも同じなのですが、こちらの方がそれが聞こえやすいですね。セクションが1・2と3の二つに大分されていることもここからうかがえます。 キック・スネアは少し忙しくなりますがフレーズを基調にしている点では同じです。ここのグレイスノートでで奇数回目の5が(1+2)+2であることがわかります。3を1+2と取るのは意外です。偶数回目の5とセットにしたときに(1+2)+2,2+(2+1)となって前後の1が上手く繋がるためかスムーズに聞こえます。 3フレーズ目(小節番号9)の中頃、5+5+5+5+3+3+2と来た後の分割が面白いですね。フレーズは3+3+3+3+3+3と続くはずなのですがそれを4+2+2+2+2+2+2+2としています。したがってこのフレーズの後半はメロディに対して2:3の関係に移行していることになります。キックの2が主旨のように思いますが、その2も三連に割られていますので、6:9と言えなくもないかもしれません。 実はこのセクションからコンガが向かって左方で鳴っています。元のテンポ(四分音符=毎分110)で聴いたときはスネアにトリガーをつけて鳴らしているのかと思ったのですが、Benny Grebがトリガーを使うところを見たことは一度もありません。半分以下の速度(上にある音源)に落としてよく聴いてみると、特にこのセクションの最後のところでそうではないことがわかります。スネアが明らかに鳴っていないのに、コンガの十六分が聞こえるのです。これはおそらく同じアルバムの"Couscous"と同様多重録音がなされているのだと思われます。Benny Greb本人が演奏したものなのかどうかはわかりませんが、かなり面白いことをしていますね。スネアのグレイスノートとは別の音色でグレイズノートを演奏したり、ただ単純に音を重ねて新たな音色としても使っています。 セクション4
声の厚みがベースのみに大きく減らされ、セクション4と5ではBenny Grebのための"遊び"が用意されています。
セクション2、3では彼一人でポリフォニックな表現(4:5など)をしていましたが、このセクションでは右手をタムのシェルに移しモノフォニックな表現に専念します。その代わりにシェイカーが向かって右方の登場。左足HHとともに4の感覚をキープしています。 まず一フレーズ目、5+5+5+5と来た場面。次は5+5+3+3と続くはずですが3+3+2+2+2+4あるいは3+3+2+2+3+3とも取れる分割をしています。これまでの最小単位である十六分を半分にした三十二分ではなくあえて三連符の細かさを採用することで十六分の枠組みを"乗り越える"感覚を演出しています。 二フレーズ目では、最初のスネアの位置が5で取ったときに2つ目になってしまいます。そこで手順に注目するとKRL,KLLというBenny Grebの十八番が最初に登場していることがわかります。これをもとに最初の6音を3+3と捉えて以下を順にみていくと、次が6で繰り返されていることがわかります。これによって、彼が考えていた分割が3+3+6+6+2+5+5+2+3+3であることが判明しました。元のフレーズの前半20=5+5+5+5であるところを20=3+3+6+6+2にしているわけです。つまりここで行われているのは5:6の"ズレ"を利用した表現なのです。筆者は大学時代にDavid Garibaldi(Tower Of Power)の教則本で習ったことを思い出しました。"Permutation Study"と呼ばれるこの学習は脳のスタミナをとてつもなく消費する内容でしたので、レッスンが近づくと心が重かったことを覚えています。 三フレーズ目もこの手順を利用して始まります。前回は20の入れ替えでしたが、今回は10の入れ替えです。5+5+5+5+3+3+2+3+3+3+3+3+3のフレーズ上で3+3+4+5+5+3+3+2+3+3+3+3+3+3としてフレージングしています。この数列を見てセクション2の楽譜を見に行ったあなたは鋭い!僕も同じことを考えました。Benny Grebはなんとメロディを(ドラム上で)歌っているのです。3,3という始まりはどこからともなく降ってきたものではなく、メロディで繰り返されるモチーフをもとにしたものなのです。4/4や3/4などであればほとんどのドラマーがメロディを叩けます。大学でいうと1学期目の期末テストくらいの感じです。しかしここまで複雑なメロディををこの拍子で歌えるドラマーはなかなかいないと思います。さすがに自ら作曲からとはいえ曲の理解が度を越えています。恐るべし、Benny Greb。 セクション5
ここもまだBenny Grebが"遊び"ます。
一フレーズ目はいったん落ち着きを取り戻します。声のフレーズ通りの5+5+5+5+5+5+3+3。前半を3+3+4捉えることもできそうなフレーズですが、スネアの位置から見るにこれは55にすり寄って言った形に聞こえます。 二フレーズ目、また歌います。5+5+5+5+5+5+2+3+3の上で、3+3+4+5+5+3+3+4+2+3+3としています。前半10を3+3+4とする入れ替えは前のフレーズと同様。注目は中盤の10です。フレーズに沿えば5+5となるところを3+3+4としています。セクション2の楽譜を見ていただければわかるのですが、これもメロディの動きに沿っているのです。 三フレーズ目でコンガが暴れだします。よく聞くと"切り貼り"のように聞こえるこのバッキングが、尖りに尖っています。二フレーズ目の中盤で匂わせた音数の少ないフレーズを使うBenny Grebに対し、コンガソロなのではないかと思うくらい複雑なことをしています。(音もボンゴっぽいのでラテン音楽における楽器構成の観点からしてもソロ的用途に適していますね。) Benny GrebはKから始める3にハマってしまっていますから、3+3+4+5+5+3+3+2+2+2+2+2+2と、最後の12を3+3+3+3ではなく3+3+3+3+3+3を2/3に縮小(150%に加速)しています。これによってより多くの3をぶち込めるわけですね。 セクション6・7
十八番の三連符で盛り上がり、セクション6に突入します。メロディが戻ってくる再現部です。ここで彼はセクション2と同じ様な4:5のリズムを使った複層構造に戻るのですが、今回はキック・スネアが5だけでなくメロディもなぞってきます。これは5の今までの分割とは異なる位置でグレイスノート、キック・スネアを鳴らしていることから判明します。
セクション6、三フレーズ目の後半、3+3+2+3+3+3+3+3+3の部分で彼は我が道を行きます。4+2+2+4+2+4+2+2+2+2で元のフレーズに沿ってはいるのですが、そのまま考えてしまうと3がエッグビートもどきになります。彼の普段のドラミングを聞くとエッグビートはそんなに使用しないので、4を分離して考えていたとする方が自然だと思います。 セクション7は彼のスゴみが全開です。4:5の感覚を維持しながらどれにも属さないメロディを拾う。エンディングに向かって音の数を増やしつつもクリーンさを保つ。Benny Grebっょぃ。。。 セクション8
最後までふつくしいドラミングです。重ねシンバルの四分音符がセクション3のドキドキ感を思い出させます。はるかに打数は多いのですが、クリーンさは変わりません。ここで聴いている私たちを楽しませているのは打数だけではなくむしろ明確に提示されたその構造であると僕は思います。
この曲は02:08しかありません。この内容の濃さゆえ、これ以上やると私たちの耳が疲れるのかもしれませんね。
これを即興的にできるBenny Grebはいったい何者なのでしょうか。それぞれの要素(例:複層構造、メロディを奏でること)一つ一つはそんなに難しいことではないのですが、これを同時にやるのは至難の業です。 YouTubeに別で録られたバージョンも上がっていますのでCD版を分析した後に聴いてみてください。この人の語彙力の多さ・曲理解の深さに感動させられます。
今回は僕の大好きなドラマーBenny Grebの凄さの示すあるフィルを紹介したいと思います。
そのフィルは02:17で起こります。ここだけ聴くと、ただよく間の取られたフィルに思えますが、その前、01:52辺りから聴いていただくとその気持ちよさがわかると思います。 02:05から四つ打ちも始まり、重ねシンバルの心地よい十六分が八分の裏拍で鳴らされ、ノるべきリズムが提示されています。ところが02:15、9小節目の時点でキックが抜け、ある意味聴いているものに対し自らの力で拍を取ることを強要します。 その2秒後、セクションの10小節目に訪れるのがこのフィル。
そう、リズムがよくわからないのです。僕も打楽器奏者を10年以上やっていますから、ほとんどのリズムは一回聴けば楽譜に起こせます。しかしこのリズムには本当に意表を突かれました。いざ楽譜に起こしてみると、下のようになります。
このフィルの凄いのは分割(subdivision)のヒントを一切与えず複数の分割様式を取り入れることで聴いている人にミスリードを起こしつつも曲の流れを壊さないところだと僕は思います。
まず一拍目の頭が休拍です。これによって聴いている人は少し不安になります。抜けた頭の音と次に来る音の時間的位置によって分割が決まってくるからです。分割単位を判断するには最低に音が必要です。そしてそれはたいていの場合表(または裏)と次の音です。一拍目でこれをまず揺らしてきます。 二拍目では、一拍目よりも細かい単位である十六分の分割が出てきます。これも頭が抜けています。しかもこれは二拍目。いわゆるポップミュージックでは必ずと言っていいほどスネアが予想される場所です。この時点でほとんどの人は拍から振るい落とされると思います。もしここの頭にスネアが入っていたら簡単に拍が取れます。 三拍目では、さらに別の分割である三連符を入れてきます。たとえここまで十六分が取れていたとしても、これはさすがに混乱させられます。しかもスネア→キック→スネアと等間隔で来ているのでそのまま付点八分音符で何か来るのではないかと人間の脳は予想してしまうのです。僕はこの拍で置いて行かれました。 四拍目では、三拍目と同じことを繰り返します。次の小節からまたイーブンな分割(十六分)に戻るので、普通のドラマーであれば三連符の分割はリスキーと考えます。表だけ叩いて止めて四分を提示する、もしくはBenny Grebのパターンに八分の裏も加えたパターンで八分音符を提示するというのが定石でしょう。もし僕がこのフィルをミュージカルの現場で演奏したら舞台上で踊っている役者の皆さんから終演後に肩パンチされると思います。「踊れねえわ!」 そして何事もなかったように十六分の元のリズムに戻っていきます。クラッシュシンバルさえ入れません。このスパイシーなフィルをBenny Grebでは珍しくかなり平和で可愛らしい曲調の中で入れておいて澄まし顔です。この曲はこのフィルのためだけに書かれたんじゃないかと思うくらい尖ったフィルです。音数が圧倒的に少ないので曲のローエネルギー、低速ギアな雰囲気も壊していません。 消しゴムで絵を描くようなこのフィル。数学的でクリーンなフィルを多用するBenny Grebがその計算能力を見せつけてきた瞬間ともいえると思えます。
4と3、2と3の組み合わせに比べ、今回紹介する7と8の組み合わせは最小公倍数が大きいため、緊張感が大きな時間単位で生み出されます。通常の組み合わせは最小公倍数が小さくすぐに二つの感覚が合致してしまうのですが、7と8の場合はなかなか合致しません。そのため合致の瞬間(=最小公倍数の始まり)が認識されず、どんどん"ズレている"という感覚になります。
(00:00-04:10) さて、問題の7と8ですが曲の終盤まで現れません。前述の期間のリズムパターンは2つで両方とも4/4です。1つ目は十六分シンコペーションの効いたパターン。ハイハットが八分で遊びを作っているところにギターのカッティングが絶妙なスウィング的意図(八分の表と裏の音価属性の違い)を加えています。2つ目はキックの4つ打ちが明快なパターン。メロディはシンコペーションし続けますが、ハイハットが十六分になるのでよりイーブンなフィールになります。この2つのパターンの繰り返しで曲は進みます。 (04:10-04:24) ここで後奏的に現れるのが今日の本題である7を基調にしたリフです。ピアノのリフは7/16。2+2+(2+1)という3拍子の分割がなされています。 (04:24-04:37) 他パートが合流してきます。全員7/8で合流してきます。ピアノのリフ(7/16)2つ分で1ループですね。ドラム・ベースの分割が少しピアノと異なります;4+4+3+3となっています。ここまでの曲4分間が四分音符を強く意識させるフレーズだったので、四分ベースで取る方も多いと思います。その場合は1+1+0.75+0.75となります。ここで起きているのは2種類の7(3拍子と4拍子)の共存ですね。下図に示しました。 1-2-3--1-2-3-- 1---2---3--4-- 上がピアノ、下がドラム・ベースとなります。パート毎の関係性はドラム・ベースの上にピアノが乗っている形になります。したがってドラム・ベースの4拍子を基調として考えます。すると、ピアノの偶数回目のリフの始まり(上図下線部)を3拍目のシンコペーションと考えられます。これがこのフレーズの面白みの一つになっているのだと思います。 (04:37-) ここでドラムが7から8に分離します。ここでいよいよ"ズレ"が起きてくるわけです。ドラムは最小単位が四分音符の強烈な2/4パターンを打ちます。 1-2-3--1-2-3--1-2-3--1-2-3--! 1---2---1---2---1---2---1---2--- 上図のようになるわけです。下がドラム、上が他パートです。僕が聴いたときは、8の方が圧倒的に数え易い分、8-1である7が十六分音符一つずつ"前のめり"になっていく形に聞こえました。もしかするとそこまで繰り返されてきたリフ、7のパターンを基調に捉えた方もいらっしゃるかもしれません。その場合はドラムが十六分音符一つずつ"遅れていく"ことになります。この緊張感がたまりませんね。ギターかベースかのどちらかが途中でドラムに乗ってきてまろやかになるのかと予想しましたが、そのまま7と8の緊張感を最大限に保ったままこの曲は終わりを迎えます。 このドラムは演奏していて気持ちいいと思います。このめちゃめちゃ簡単なドラムのパターンがここまで輝く曲はなかなかありませんね。 (追記) これのことを"ポリリズム"と呼ぶミュージシャンがいてびっくりしたことを覚えています。ポリリズムとポリメトリックの違いは音楽理論の講義でいうと最初の学期に習います。テストによく出る内容ですよね。 |