(1) YouTubeという甘い毒
音楽を聴いたり学んだりするのは、決して安くも易くもなかった。 私がドラムを学び始めたのはおよそ2006年あたりで、YouTubeの誕生とほぼ同じ時期である。この当時市販のドラムの教材というと、教則本とそれについてくるCD・DVDくらいであった。中高生の頃は一緒に音楽をやる周りの大人たちに習い、大学生になると渡米し大学で音楽を学んだ。 そして今は一丁前に日米中で演奏、講義やレッスンをするおじさんになった。消費者から生産者になったこの15年の間で、世間の状況も大きく変わったと思う。YouTubeの普及によって莫大な量の演奏や教材が無料で容易に手に入るようになった影響は、あまりにも大きい。 聴く側、学ぶ側にとって様々な演奏、教材へのアクセスが容易になったのは良いことだ。確かに裾野は広がったかもしれない。しかし、悪い影響も無視できない。NAMMショーやPASICという世界中の音楽関係者が集まる展覧会に参加していると、この負の側面に関する議題が頻繁に取り上げられている。 (2) 聴く、学ぶ行為におけるインスタント性の高まり 視点1.レコード、CD、ウォークマン、ストリーミングと移る中で、一番良い部分に易くかつ安くアクセスできるようになった。お気に入りの1曲や1フレーズを見つけたりするのに何十分も曲を聴くようなことは、もはや一般的ではなくなった。YouTube、TikTokはその極致だ。インスタントな良さがすべてなのだ。 視点2.そもそも動画というフォーマットのインスタントな良さというのは、名前の有名度・顔などのビジュアル・再生数や評価など、音楽の性質以外の要因が大きい。音楽の良さの基準が、音のない要因とも結びつき、変遷してきた。「情熱大陸か第九をサビから弾くしかないんか」と言うピアニストや「タキシードという出オチ」と嘆くオペラ歌手、さらには「じゃあ私も谷間出せばええんか」とキレ散らかすバンドマンまで、嘆いている内容は同じだ。 視点3.YouTubeを含めたSNSでは、インスタントな「イイね」を取れるコンテンツが強い。これは学習者にとっても同じだ。理論の解説や、楽曲分析、地味なフレーズの繰り返しの演奏は、ウケない。動画の最初の数秒、場合によっては再生前のタイトルやサムネイルによって再生されるかどうかが決まる。そのため、大音量で派手なタム回しや、複雑怪奇なフィルが好まれる。日向があれば日影があり、派手があれば地味がある、そんなものは旧いのだ。全部日向が一番いいのだ。 視点4.学習者にとっては派手な演奏などの断片的な知識がどんどん貯まっていくだけで、「なぜその演奏がよく聞こえるのか」「なぜその手順なのか」などの根本的な理解が進まない。最近学習を始めた生徒さんを見ていると、このパターンがほとんどである。これでは、すぐに飽きてしまう。どんなに派手なフィルが叩けても、アンサンブル力がないと、「自分の出番」以外はうまく叩けないし、つまらないのだ。 視点5.無料で容易にアクセスできる派手な情報がある時代に、楽器店に行かなければ買えず、DVDプレイヤーが必要で、数千円もする教則本なんてものは、物好き以外は買わない。動画であればコメント、再生数、評価やクオリティなどで「良いもの」が簡単に判断できるが、教則本の良し悪しは、とてもわかりづらい。 聴く側=消費者の耳も、学ぶ側=将来の作る側の手も、インスタントな音楽にチューニングされている。 (3) 音楽はオマケになった。 「CDショップやiTunesで30秒の試聴が導入されても、スローな良さを好む(=認知に時間と注意力を費やす)層はいなくならなかった。」「インスタントな良さに飛びついたファンも一部はコアファンに変容し、より長く深い音楽自体への注意をいずれ獲得できる。」「敢えて人気でないものを好む層もいる」「モノ消費からコト消費へ、CDからライヴへ」 こんな慰めの言葉をいくら聴いても、現場のディストピア感は消えない。音楽はもはや単体では数秒の注意しか獲得できず、1曲0.01円まで価値は落ちたのだ。前述のコメントは我々の危惧の本質からズレているのだ。音楽自体で金をとる、音楽で長い時間の楽しみを提供することは、もうかなり厳しい。 仕方ない。技術の革新と普及は避けられない。あらゆるものの価格は落ちる。そんなことはわかっている。しかし(特に自覚のある)演奏者にとって、技術と市場の大きな力に負け、俗に落ちてこのインスタント化=音楽の価格の下落を加速させる歯車になることは大きな悲しみを伴うのだ。吹奏楽部のスポ魂化批判、クラシック奏者による「ポップス堕ち」した同業の軽蔑、インディーズによるメジャーの「大衆迎合」批判など、これまで数世紀の間、様々な形で現れてきたものも、ついにここまで来たのである。 無料でコンテンツをオンラインに上げ、聴く者・学ぶ者をインスタントな良さにチューニングし、裾野を広げるとの名目で価値の低下を招く、そんな行為に対する嫌悪感。 しかしこれはジレンマの一例に過ぎない。散々言う私も、もういろいろな形でこの業界の自殺に加担してしまっている。コンクールの実績では売れず結局アイドル化した音大卒のピアニストに依頼通りの派手な曲を書きながら、大衆向けと謳うクラシックコンサートでジジババに向けて燕尾服で千本桜を叩きながら、ミュージカル調なアニソンのドラミングを罪のない若者に教えながら、割と絶望している。
0 コメント
打楽器(パーカッション)を幼いころから学んでいる人口はとても少ないため、プロの打楽器奏者・講師としては嬉しい限りです。お子様の興味を活かし、楽しい時間を合理的に過ごすおすすめ方法をいくつか提案します。
--------------- 1. キッズドラムセット(Playtech社など、15,000円程度)にメッシュヘッドTama社計4,000円程度)を張る方法。必要に応じてLow Volumeシンバル(15,000円程度)追加。 こちらはお子様用に作られた小型のドラムセットになります。残念ながら多くのドラムセットは大型で未就学児のお子様ですと手や足が届きませんが、こちらですとしっかり届きます。ドラムセットのフルセットなので、見た目の満足度は高いかと思います。 もちろん通常のヘッド(鼓面)を張ると大音量ですので、「メッシュヘッド」と呼ばれるタイプのものに張り替えていただくのがよろしいかと思います。こちらは電子ドラムに使われているヘッドで大幅な音量の削減が可能です。スティック同士を当てた音よりも小さくなります。残念ながらリム(フチ)やシェル(太鼓の胴)を叩いたときの音は変わりませんが、この音量はスティック同士の衝突と同じくらいになりますので、ある種不可避です。スティックにテニスラケットのテープやビニールテープを巻くことで少し音を柔らかくすることは可能です。 金属製のシンバルが付属することもありますがこれはとても大きな音がしてしまいますので、シンバル抜きで渡してあげるのが良いかと思います。シンバルがないことに不満を抱いてしまった場合、Low Volumeシンバルという細かい穴のたくさん空いたシンバルをご購入いただくのがよろしいかと思います。ハイハットという2枚ペアのものとクラッシュという少し大きなものの2つがあればそれっぽい見た目になります。こちらはそれぞれ7,000円くらいになります。これの音量もスティック同士の音に近いですが、高音域のみのため壁に吸収されやすくなっております。 この組み合わせにおいて最も懸念すべきは振動かと思われます。ご自宅が1階の場合は問題ありませんが、2階以上ですと横、下への振動の伝播があります。これはキックペダル(右足のペダル)に多くが由来しますので、お子様がジャンプしたときの衝撃より少し小さいくらいです。こちらはカーペットや防振マットで緩和できます。特にゴム製のマットは叩いている間に楽器がズレていくのを防止する働きもあり、安全対策にもなります。 2. 音楽スタジオで生のドラムセットを叩いてみる。(個人練習扱いでのスタジオ代600円-1,000円/h程度+スティック1,000円-3,000円程度) これはお子様がどうしても本物が良いとおっしゃった場合の解決策になります。4~5歳で、スローン(椅子)のサイズの問題でキックペダルに足がギリギリつくくらいだと思われます。足がフラフラしてしまうので、ご自宅から小さい椅子を持っていくのも良いと思います。 スティックで叩くドラムやシンバルは、高さや傾きを調整してあげればうまく鼓面に当てれるようになります。 スティックに関してはご自分で用意していただく必要があります。太さ、長さ、見た目、重さにバリエーションがありますので、楽器店さんにお子様を連れて行くのもよろしいかと思います。小型で軽量なものの方が音は小さくなります。4~5歳ですと大人用でも掴むことができます。スタジオの受付でも大抵何種類か販売しています。 生のドラムを叩くとき、必ず約束していただきたいことがあります。それは、耳栓などの音量対策です。音量がとても大きい楽器なので、耳を守る対策が必須です。耳栓以外にも空港で使うような耳を完全に覆うタイプのヘッドホンも使うことができます。 3. スネアドラム(15,000円程度)または練習パッド(6,000円程度)、とスタンド(6,000円程度)。 何か叩く相手があればよいということであればこの方法が良いかと思います。生ドラムの場合1.同様メッシュヘッドにしていただくと良いと思います。練習パッドは机の上でも演奏できますが、振動の伝播があるのでスタンドをおすすめします。 スタンドは調節できる最も低い高さと保持することのできるドラムの内径(インチ)に注意していただければ良いと思います。 スネアソロの演奏を見せてワクワクするようなお子様も多いので、その様な場合はこれが最も良いかと思います。 お子様によっては、チューニングによって音が変わることに興味を示される場合もあります。 4. ドラムセット以外の打楽器に挑戦する。 Remoというブランドがドラムサークルなどに使用する楽器の開発に力を入れており、特に有名です。今まで紹介した楽器に比べて安全性がはるかに上です。 こちらも楽器店さんで試奏してみるのが良いと思います。 5. ボディパーカッションに挑戦する。 一時期前にStompというシアターが流行りましたが、そういったパフォーマンス全般をボディパーカッションと呼びます。身体に限らず、ご自宅にあるものを叩く、擦る、などして音を出すことで音楽を作ります。 私が子供のレッスンを受け持つとき、多くの場合ドラムセットとボディパーカッションのミックスになります。 ----------------- ご自宅での練習に関しては、1.の様な対策が有効かと思います。また、特に男の子の場合、叩いて良いもの、いけないもの、叩いて良い時間、いけない時間についてお子様とお話をしていただくのも大事かもしれません。 また、別角度の解決法として、個人レッスン、習い事を受けてみるというのも良いかもしれません。私自身も教室を開講していますのでぜひご相談ください。巧緻性が未発達でピアノが苦手なお子さん、先天的音痴やシャイな性格から歌やバイオリンが苦手なお子さんも、楽しく習うことができます。リズム感の発達や音色への気づき、周りの楽器とのバランスを通しての社交性の発達などの影響が見込まれますので、ぜひご検討ください。 現役のプロとしてドラム/パーカッション講師を始めて5年目、生徒さん達からのアンケートを基にまとめます。
個人レッスンを受ける意味として大きく分けると次の6つが考えられそうです。 ------ 1.何が違うのかを学び、効率的に練習できる。 「なんかうまく聞こえない/叩けない」という曖昧な悩みの状態から「こうこうこうだからこうなっている」という具体的な原因と結果がわかっている状態に素早く辿り着けるのは大きな利点です。客観的な指摘をプロの視点から提供することで何がわかっていないのかわからない状態を脱却します。 このプロセスを通して何を治すべきか目的が明確にわかるので、成長の効率が上がります。 2.ひとりひとりに合った練習の内容を学べる。 完成形のビートをやみくもに真似するよりも効率的な練習を学べるのも、大きな利点のようです。 また、練習パッドのみ持っている、キックペダルも持っている、電子/生ドラムをやっているなど所持楽器の種類や、部活で毎日叩ける、仕事休みの土日だけ叩けるなど練習時間も、ひとりひとり異なります。これらを考慮して最適なプランを立てられるのもメリットです。 ある生徒さんは1か月後の結婚式の出し物に向けて超特急で、ある生徒さんは全くの初心者でスティックの握り方から体系的に、ある生徒さんは経験者で見えていなかった部分をそれぞれ、そんな融通が利きます。 自分の場合、通勤通学の空き時間などに楽器無しで練習する方法なども提供しているので、これも好評のようです。 3.目標が目の前で見える/聞ける。 自分自身楽器を始めたての頃は教則本の挿絵やビデオを見て自学をしていましたが、これはなかなか難しいです。私の後ろに立って奏者目線で観察したり、目標となる演奏をゆっくりにして/分解して聞いたりできるのが個人レッスンならではの良さです。録画、録音もOKにしているので、家に帰ってから復習できます。 4.楽器や練習用品を買うときのアドバイスが得られる。 これも意外とよく言われます。「これを買って練習になるのだろうか」「カホンはどこを見てどこで買えばよいのか」という相談にプロの演奏家の視点から答えられます。 5.できるようになったことが明確になりモチベーションが上がる。 大抵の場合は実際に上手くなるまで次のトピックには移らないので、上手くなったときの実感があるようです。確かに曲が叩けるようになった、ベースと離れなくなった、など成果が出るのは嬉しいですよね。 6.自分の都合でレッスンとその支払いのペースが決められる。 これは特に集団レッスンや大手教室、エージェントを通した場合と比べて、という話になります。集団レッスンですと、「毎週何時にどこどこ」という指定、固定があるようですが、私のような個人レッスンの場合、「今日は学校/職場の近く、次回は自宅寄り」「来週急に空き時間ができたからそこで」など好きなタイミング、ペースで学べます。また、月何回という月謝制でもなく都度支払いなので忙しい時期に振り替えないと損をするようなこともありません。 ------- 特に上の5つの利点に関しては医者に診てもらうのと似ているように思います。「なんか咳が出るからかぜ薬飲む」よりも医者に行って検査を受けて原因と症状を明らかにして効果のある薬を処方してもらった方が効率良く確実に治せる、という具合です。 この記事の内容がレッスン受講を考えている人、レッスン開講を考えている人、双方の役に立てば幸いです。また、東京でドラム、カホン、コンガ、音楽理論などのレッスンに興味がある方はぜひご連絡、ご予約ください。
ドラム講師をしていると「ドラムは自宅で練習できない」という説について意見を求められることが多いのでここに私の考えを書きます。
1.そもそも「ドラムは自宅で練習できない」と言われる原因は何か 一般的に、ドラムセットは大音量で、かつ大型なため運ぶことがが困難な楽器です。これが大きな原因として考えられます。 小型で移送が容易であればボーカルやサックスのようにカラオケボックス等で練習することができますが、これはできません。 また、ドラムセットの演奏は(一部のスタイルを除いてほとんどが)大きな音量での演奏を求められます。これは日本の住宅事情と相性が合いません。 2.練習に別の楽器を用いて問題を解決できるか 練習に用いる楽器には様々なオプションがあります。
では、練習パッドとキックペダルのみで練習できるのか、考えていきましょう。 3.ドラムは練習パッドでもかなり練習できると考える理由 練習とは何かを考えてみると、練習パッド、あるいは楽器なしであってもかなり練習できるということがわかります。 視点A.練習のプロセス
このプロセスは書道に例えるとわかりやすいかと思います。
視点B.練習に用いる感覚
脳の練習、復習はは自宅でも、楽器を用いずにできることがわかります。また、筋肉の練習も、ドラムセット依存の感覚を用いるものでなければ練習パッドで練習できます。 (〇=練習パッドや楽器なしでも練習可、×=生ドラムなし練習不可)
4.練習パッド、あるいは楽器なしで自宅で練習する方法
練習パッド、あるいは楽器をまったく用いない具体的な練習方法として、以下のようなものがあります。
実際に私も上のような練習を行ってきました。プロになった今でこそ生の楽器を叩いて練習できる環境にありますが、大学で音楽科を選ぶまではパッドとスティックの練習がほとんどでした。 特にパッドとスティックすら使わない方法は、追加の利点として場所を選ばないことがあります。散歩中にメトロノームを聴いて歌うことも、通勤・通学中の電車内でお手本と自分の演奏を比較して分析することもできます。僕は大学時代、学食の洗い場でバイトをしていた時も頭の中で練習を続けていました。戻ってきた2枚の皿を完全に同じタイミングで食洗器に突っ込むことで両手で同時にストロークする触覚の練習もできました。 5.楽器がないと練習できない(=自宅では練習できない)内容は何か 逆に、ドラムセットがないと練習できないことがあるのも事実です。これを理解することで、スタジオに入った時などの短い練習時間に効率的な練習ができます。
6.おわりに 今回の記事が、ドラムセットを学ぶ皆さんの参考になれば幸いです。ドラムセットの学習をより多くの場所でより多くの時間に、効率的に学ぶことが大切です。目的を明らかにすることで無駄な練習の削減にも繋がりますので、もっと速いペースで上達できるでしょう。 僕は個人レッスンもやっていて、受講者の皆さんにはそれぞれの目標や得手不得手、所持楽器の有無、学習ペースなどに合わせて練習方法を提案しています。どこから始めたらいいのかわからない初心者の方、体系的に学びなおしたい方、さらに上達ペースを早めたい方、ぜひご連絡・ご予約下さい。 |